"Ignition"

時代は20年周期で繰り返されると言われている。

 

一躍時代の寵児となったTKこと小室哲哉のプロデュース作品が日本の音楽シーンを席巻し、オリコンを賑わせた1995年。それまでの中心であったバンドブームは失速し、一気に打ち込みサウンドが市民権を得た瞬間でもあった。

 

そして時は巡り2015年、T.K.Rush結成。

奇しくも同じく打ち込みサウンドをベースにした90sデジロックを旗印に掲げる彼らが、ちょうど20年後のこの年に生まれたというのも必然かもしれない。

 

結成からわずか半年という異例な早さでリリースされた1stアルバム"Ignition"。

直訳すると"点火・発火"を意味するこのタイトルは、"TKR号発射の号令"との意味合いにも取れる。ロケット発射の合図、「Ignition、sequence、start」のアレである。

荒削りだが、まさに宿る火種が今にも爆発しそうな、スタートダッシュに相応しいエネルギーを感じる事ができる。

 

特筆すべきは、収録曲6曲が全て違う方向からのアプローチである事。

王道のデジタルポップを筆頭に、高速デジロック、またEDMやヒップホップ等の要素を取り入れたものや、はたまたミディアムスローなダンスナンバー、そして8ビートまで。実に多彩。すなわち入りやすいのだ。お好みの角度から各々のTKRを体感出来る。

一聴すると、世間でよく言われるノージャンルだとかジャンルフリーといったものを指すように聞こえるかもしれない。

但しその言葉は彼らには当てはまらないだろう。

TKRの場合、全てがTKR風であるという事を一貫している。TKR節と言った方が適切か。何しろ全てがTKRっぽく、そしてゴキゲンなのだ。

この爆発力を秘めたオリジナリティー。少なくともこの界隈で彼らのようなスタンスのバンドを目にした事がない事も、これを裏付けている。

 

ベタな表現を恐れずに言うとすれば、"懐かしい、けど新しい"。使い古されたキャッチコピーだと一笑するのは簡単。

だが、少しでもそう感じる所があったとすれば、90sデジロック踏襲を目論むT.K.Rushの挑戦は、ひとまず成功と言えるだろう。

(了)

copy by K.Suzuki